もの思う場所
先日、店内の記帳ノートに
映画の中の一節を残してくださったお客様がおられた。
こめじるしに来てふと、そのセリフを思い出されたのだそう。
そのセリフ自体も素敵なものだったけれど
その方にとって、こめじるしで過ごす時が
「もの思う時」となったことがうれしい。
何を話すこともなく、ただ自然を見つめる時は特別。
私たちにとってそうであることが
あるお客様にとってもそうであったことが
この上なく幸せに感じたできごとであった。
みんなの森
無性に食べたくなるときがあるのである。
お好み焼きが。(広島焼き)
夫婦二人とも広島にいた頃は
今日はお好み焼きにする?などと言っては
すぐにお店で食べられることが日常で
こちらに来てから、それができないことは
けっこう寂しいのである。
そんな中、いつもお世話になっている方が
お好み焼きを作るのがプロ級にうまいことが発覚し
早速にこめじるしでお好み焼き会を開いていただいた。
その準備の時の話。
外でお好み焼きを設置するテーブルの配置をしていた主人が
「近くで焼かん方がいいよね?」と
真剣な面持ちで聞いてきた。
鳥の巣箱の近くでお好み焼きを焼かない方がいいのでは?
と聞いてきたのである。
先日、オープンと同時に設置していた鳥の巣箱に
ヤマガラの夫婦が住みついたことが分かり
二人で飛び上がるほど喜んでいたのではあるが
近所の家に遠慮するようなテンションで
問いかけてきた主人に笑いをこらえきれなかったと同時に
真剣に考え直したのである。
巣箱でくつろいでいるときにお好み焼きの匂いがしたら
ヤマガラの夫婦は迷惑だろうか。
そもそもお好み焼き、という存在が彼らの住む世界からして
範疇にないものであろうから
いや、その前に鳥の嗅覚ってどうなんだろう。
などととめどなくあれこれ考えながら
結局は巣箱から遠めの位置にテーブルを配置し
絶品お好み焼きを堪能させていただいた。
「こめじるしの森」って、名前間違えたかな。
春のひとりごと
インターネットやテレビで何でも知ることができる
と、世の中では言われているけれど
そんなことはないなあ、とつくづく思うのである。
いろいろなお客様とお話をして
いろいろな人生があって
そこには想像の範疇にない想いや感情があって
たとえば人と人との出会いも別れも、
「結婚」や「離婚」の一言で表すことはできるけれど
だから、幸せ。だから不幸せ、と
世の中の方程式にあてはめて考えることほど
浅はかなことはなくて
自分の目で見て、自分の耳で聞いて
そこで初めて何かを知る
今さらながらそんな単純なことが
腑に落ちている今日この頃であります。
連休中はたくさんのご来店ありがとうございます。
出会いがあり、再会がありうれしいです。
熱湯で泳ぐイルカ
祖父母との同居を始めて2週間。
ある日、祖母が旅行のお土産に
5ヶ月の娘にイルカのぬいぐるみを買ってきてくれた。
娘はそれを嬉しそうにすぐに口に持っていき
ぱくぱく、むしゃむしゃしとしだした。
祖母はそれを見て、「こりゃいけん!」と
台所でボウルに熱湯をはり、イルカを泳がせ始めた。
菜箸でぐるぐるとイルカをつつき
何と熱湯消毒を始めたのであった。
熱湯の中で泳ぐイルカは何ともシュールで
また可哀想な光景であり、
その後天日に干されたイルカは
押すと可愛らしい鳴き声がしていたはずが
その機能さえ、失われてしまったようだった。
(イルカさんには、大変申し訳ない気持ちを持ちながら)
その光景を見て、
何だかとても温かい気持ちになったのであった。
そこに「正しさ」は必要がない気がした。
熱湯消毒できちんと消毒できなくても
何か他に方法があるとしても、それでいいのだ。
娘はきれいになったイルカさんと
毎日楽しそうに遊んでいる。
祖母のやさしさをいっぱいに受けとりながら。
冬とお日様
雪がたくさん降った。
私は雪が少ない地域で生まれ育ったから
生活に影響があるほどの積雪を
島根に来て初めて経験した。
地元の方にとっても今回の豪雪は
10年来の積雪だそうで
「この雪が毎年降るわけじゃないから
心配しなくて大丈夫よ。」と
雪の影響が大きい場所に
お店を持つ私たちを気遣ってくださる人もいた。
雪かきをしても、雪かきをしても
後からどんどん積もる雪。
子供がいることもあり外出できない
数日間を過ごしたのち
ある日ぱっと、日が差した瞬間があった。
「あ!太陽だ!」と
本当に心が晴れる心地がした。
お日様、と様がついているのは
まさにその通りだと、ありがたいなあと
そんなことを感じたのは人生で初めてだった。
そして今日、邑南町の空は晴れている。
風は冷たいけれど、ポカポカ陽気が気持ち良い。
お日様、今日もありがとう。春はきっと、すぐそこですね。
謎のマークとカードの正体
「友達がこのマークのカードを見せてきてからね、
いつも自慢するんじゃけえ。」
お店に来てくれた男の子が、こめじるしのロゴが入った
ショップカードをさして言った。
ロゴが入ったショップカードが
幼稚園に通う男の子にとっては、
謎のマークが入った1枚のカード。
「どうしてもそのカードの場所に行きたいって、
それで今日来たんよね。」
と、その子のお母さん。
謎のマークとカードの場所、楽しかったかな。
今度はお友達と一緒に、遊びに来てね。
想像の先にあるもの
ある日の夕方、
「これからたくさん連れてくるけどいいかね」と
いつもお世話になっている近所のお父さんが来られた。
聞けば集落の新年会があり、ありがたいことに
その後こめじるしにという話になったそうだ。
「椅子はなくても、立ってでもいいから。」と
次々と集落の方が来られ、一気に店内はにぎやかに。
こんなに一度にたくさんの珈琲を
お出しするのも初めてだった。
「お子さんはどうかね。」「珈琲おいしいね。」
あちこちでいろいろな会話が飛び交い、
いつもとはまた違った雰囲気の店内。
新しい年が明け、少し肩に力が入っていたところ
ほどよく気持ちがゆるむ心地がした。
お店をこうしよう、こうしていくべきだ。
そんなことをよく私たちも考え、話すが
お店は私たちだけでできるのではなくて
きっとその想像を超えて、お客様によって
気づかされ、できていくことの方が多いのだろう。
この場所で、ここにいる方たちと、
そしてまだお会いしたことのないたくさんの方たちと
ここにしかない、こめじるしの形を
今年も少しずつ築いていきたい。