エピソード11
熱湯で泳ぐイルカ
komejirushi
祖父母との同居を始めて2週間。
ある日、祖母が旅行のお土産に
5ヶ月の娘にイルカのぬいぐるみを買ってきてくれた。
娘はそれを嬉しそうにすぐに口に持っていき
ぱくぱく、むしゃむしゃしとしだした。
祖母はそれを見て、「こりゃいけん!」と
台所でボウルに熱湯をはり、イルカを泳がせ始めた。
菜箸でぐるぐるとイルカをつつき
何と熱湯消毒を始めたのであった。
熱湯の中で泳ぐイルカは何ともシュールで
また可哀想な光景であり、
その後天日に干されたイルカは
押すと可愛らしい鳴き声がしていたはずが
その機能さえ、失われてしまったようだった。
(イルカさんには、大変申し訳ない気持ちを持ちながら)
その光景を見て、
何だかとても温かい気持ちになったのであった。
そこに「正しさ」は必要がない気がした。
熱湯消毒できちんと消毒できなくても
何か他に方法があるとしても、それでいいのだ。
娘はきれいになったイルカさんと
毎日楽しそうに遊んでいる。
祖母のやさしさをいっぱいに受けとりながら。