密かな目標
私たちの好きな小さなガソリンスタンドがある。
ご家族なのかどの方も、いつも変わらぬ丁寧な接客。
窓の細かい汚れまできちんと拭いてくれ
挨拶から送り出しまでサービスが徹底している。
そのガソリンスタンドに行くたびに清々しい気持ちになる。
目の前にあることを、毎日変わらず丁寧に。
それはお店でも、日々の暮らしでも、目指したいところ。
今の時代、人と違うことや目立つことは評価されやすいけれど、
淡々と変わらず一つのことを続けることは見えにくい。
けれども私にとっては、後者の方が価値があるように思えてならない。
森と記憶
3歳の娘をおんぶして森を散歩していたら
のどの奥がツンとして涙が出そうになった。
落ち葉の絨毯の下には真緑の雑草たちが顔をのぞかせていて
まだこれからが冬本番というのに
先の春を見据えて力強く生きている。
季節は容赦なくめぐり、人間を待ってはくれない。
背中では寝はじめた娘が暖かく重みを増して
吹く風が一層冷たく感じる。
おんぶして後ろで寝息をたてるこの時もきっと一瞬で
いつかこの森でのことを懐かしく歩く時が来るのだろう。
森の匂いも、風の冷たさも、全てが記憶となり
いつか思いをはせる思い出。
今を大切に。一瞬一瞬大きくなる娘たちをしっかりと見つめたい。
憧れる人たち
こめじるしに立っていることでうれしいことは
素敵な年の重ね方をされる人たちに出会えること。
共通の趣味を持って刺激的な毎日を過ごされているご夫婦。
お店でコーヒーを飲みながら笑い合っているご夫婦。
多趣味でいろいろなことを教えてくださるおばあさま。
いつも笑顔で知らないことをたくさん教えてくださるお父さん。
きっとこれまでたくさんのことを経験されてきて
楽しいことも辛いことも見てきておられるはずだけれど
苦労話ではなくて今を楽しんでおられるお話ばかり。
がんばって、といつも応援してくれる。
辛いことや悲しいことは誰しもが経験することだけれど
いくつになっても年を重ねても、人に優しくありたい。
お店で出会うそんな方々が私にとっての一番の憧れ。
真夜中の蛍
夜、家のまわりを1周歩くとよく眠れるからと
毎日の夜中の散歩を欠かさない92歳のおじいちゃん。
先日、朝起きた2歳の娘に
「蛍をつまかえたんじゃが袋から出てしもうたー」と寂しそうに話しかけてきた。
聞けば夜の散歩中に、娘のために蛍をつかまえて袋に入れたのだが
穴が開いていたらしくそこから逃げてしまったらしい。
「まだそのへんにおるかもしれんでー」と言うが見当たらない。
その前に、めっぽう最近弱ったと言うそのおぼつかない足で
よくぞ暗闇の中飛び回る蛍をつかまえたものだと思った。
その様子を想像すると思わず笑いが出そうになる。
蛍を追いかけてあちこち追いかけ回っただろう。それも真夜中に。
そこには、愛しかない。ひ孫への。
そんなひいじいちゃんと一緒に暮らせる娘は、間違いなく幸せである。
森の風景
芽吹きたての葉が生い茂る青々とした森の入り口に
1輪だけ鮮やかなピンク色の椿が咲いていた。
位置も色合いも完成されすぎていて思わず見惚れる。
その椿が咲いている枝は
冬の間中降り続く雪の中にずっと埋もれていて
もう折れてしまったかと思うほどしなだれていた。
今年は重い雪のせいかその椿の木も弱り
咲かせたのはその1輪だけ。
しかも一番にしなだれていた枝の先。
その木に感情はない。
けれども計り知れない自然の力とメッセージを感じる。
どんなに厳しい環境下でも耐え続け、
たった1輪人の目を奪うほどの美しさで咲いた。
これだから、自然とともに生きたいと思う。
長い冬を越え、声が聞こえそうなほどの勢いで芽吹く木々たち。
そんな変化は四季折々、季節ごとに起こる
ありふれた自然の出来事。
けれどもどんな映画を見るよりも、どんな小説を読むよりも
ドラマチックに思えてならない。
スイッチのない世界
どこまでやったら終わりが来るのかと
もはやそんなことを考え始めるときりがないので
とにかくひたすら、無心に、という心持ちで
雪かきは進めて行くのがいちばんよいのだろう。
今年の冬はとても厳しく、私たちは零下の気温が続く日々を
島根に住んで初めて体験している。
降り続く雪、水道管の凍結、本当に鍛えられる冬で
自然を前にしては本当に無力な私たちを実感しながらも
すぐに答えが出ないことや、スイッチひとつで解決しないことが
どれだけ人を強く、たくましくしてくれることかと気づいた。
どうしようも太刀打ちのできない自然の厳しさの中にあって
ゆっくりと、じっくりと物事に向き合うことができること
それはとても幸せなことなのではないか、と思う。
便利さを追求することよりも大切なことを
今年の冬は私たちに教えてくれた。
森の椿は雪の重さにしなだれながらも
固いつぼみをじっとたずさえて、
庭の梅の木は雪の中かわいい芽をいくつも出して、
私たちに必ず訪れる暖かい春を
言葉なく教えてくれている気がする。
新年明けましておめでとうございます。
今年は雪のない年末年始となった。
雪かきもなく車も問題なく行き来できるので
生活する上では助かっているのだが
一面銀世界のはずの景色がなく
荒涼とした森と澄み渡った晴れ空を見ていると
どうも、それはそれでそわそわするのはなぜだろう。
お店の年末最終日、年明け一日目と
常連さんたちのたくさんの顔が見られほっとした。
今年はこめじるし4年目に入る。
今までに積み重ねたものもあるのだろうけれど
新年を迎え、お店のことを思うたびに
私たちははじまりの時と同じ気持ちでいる。
こめじるしに来てくださったお客様お一人お一人が
心地良いと感じてくださるように
私たちはただそれだけを大切にしたい。
からっと晴れた晴天が続き人間は心過ごしやすいけれど
自然はそれをどう受けとめているだろうか。
ものごとの本質を見つめることを、
現状の楽しさやうまくいっていることに甘えてやめないで
どんなときも背筋をしゃんとしていたい。
そんなこめじるしを
本年もどうぞよろしくお願いいたします。
こめじるし
〒696-0222
島根県邑智郡邑南町下田所1570 Tel&FAX 0855-83-0088
OPEN 11:00-18:00 ランチ 土日月のみ MAIL info@komejirushi-web.com
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