エピソード11
蛇の盗み聞き
komejirushi
その時まさか頭の上で蛇が話を聞いていようとは
想像もしていなかった。
古い家に住んでいた頃に部屋の中に蛇がいて
それはそれは驚いたというお話を
お客さんから聞いたその数日後、
何かの気配がしてふとお店の天井を見上げると
とぐろをまいた蛇の真白いお腹が梁からはみ出していたのだった。
梁の上にいるものだからどうにも手の出しようがない。
営業中に上から落ちてきては、という心配はあったが
そのまま様子を見守るしかなかった。
次の日も、その次の日も蛇はそこにいた。
よほどとぐろをまくに具合が良い場所だったのだろう。
考えようによっては、ねずみなどや害虫などを退治してくれる
強い守り神なのでは、と考え始めた頃
蛇は私たちが知らなかった梁と壁の間の穴から
静かに出ていってしまった。
昨年は、森にある巣箱にヤマガラの夫婦が卵を産んだが
ものの数日で蛇に襲撃されてしまい
悲しい思いをしたのであったが
巣箱の位置と行動範囲からして
もしかしたら同じ蛇なのかもしれない。
けれども、と考えた。
この森の近くにお店を作り過ごしている私たちは
蛇から言えば後から来たじゃまもの。
見れば「こわい」だの、餌を食べれば「ひどい」だの
何と人間は勝手なのだと思われているかもしれない。
今は盛りの森の緑が美しい季節。
あと1ヶ月もすれば紅葉が美しい季節へと移ろう。
私たちはその森の恩恵を受けて今この店を営んでいる。
自然のおかげ。それは緑だけではなくて
この森に過ごし、生かしてくれている生き物すべて。
今日も森からの風は心地よく、木の匂いが濃い。
ここにはたくさんの命が集まっていると思えば
また森を眺める目も、新鮮に映る気がした。